シカケコンテスト2015まとめ
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シカケコンテスト2015まとめ

文責:松村真宏

はじめに

「仕掛け」とは、何らかの問題を解決するように人の行動を促すキッカケのことである。例えば、以下の図1の筒は天王寺動物園に設置されているものであるが、筒の前を通ると気になってつい覗きこんでしまい、そこに置かれた象のフンを観察して楽しむというものである。何の変哲もないただの筒に見えるが、望遠鏡を想起させる形状、興味を引きつける穴、子供の目の前の高さにある、といった要因によってそれまで通り過ぎていた人の足を止め、今まで見たことのない場所を観察させる仕掛けになっている。天王寺動物園は動物の住んでいる環境を再現した生態展示を行っており、この筒は来園者に動物以外のものにも目を向けてもらうための仕掛けになっている。


図1. 天王寺動物園の筒

この「仕掛け」に関する初めてのコンテストとして、2015年7月4日(土)に「シカケコンテスト2015」(以下、シカケコンテスト)を開催した。「仕掛け」をカタカナ表記の「シカケ」にしたのは、対象を子供にまで広げたかったことと、幅広い意味をもつ普通名詞の「仕掛け」と区別したかったことによる。

シカケコンテスト概要

今回のシカケコンテストでは以下の理由によりテーマを「動物園」に設定し、動物園を楽しくするシカケを募集した。

「シカケ」は言葉としては馴染みがあっても実際にシカケを作るとなると敷居が高くなることから、アイデア部門と実装部門を設け、シカケを作ったことのない人にも参加してもらえるようにした。2015年5月11日から5月末まで発表を募集し、最終的にはアイデア部門8件、実装部門11件の全部で19件の募集が集まった(発表取り消しやアイデア部門から実装部門への変更があり、最終的にはアイデア部門5件、実装部門13件になった。)。参加チームの内訳は以下のとおりであった。

また、今年はちょうど天王寺動物園の開園100周年であり、さまざまなイベントを開催している。その一環としてシカケコンテストも来園者にも楽しんでもらえるイベントにもなることや、図1の筒が天王寺動物園に設置されていることから、シカケコンテストの会場として天王寺動物園にご協力をいただいた。

天王寺動物園には、110,000平方メートルの広大な敷地に約200種900点もの動物が飼育されているが、ライオン、ゾウ、ホッキョクグマといった人気の動物たちにばかり注目が集まり、マイナーな動物たちはじっくり見てもらえないことが多い。今回のシカケコンテストでは、動物たちの知らなかった魅力に気づいたり、動物園を楽しくするような仕掛けが集まることを期待した。


図2. オープニングの様子

当日は以下のように進行した。オープニングの様子を図2に示す。

14:05〜 オープニング、コンテストの趣旨説明、審査員の紹介
14:22〜 アイデア部門
15:08〜 実装部門
16:32〜 審査員部門
16:57〜 表彰式
17:07〜 後片付け
18:30〜 懇親会

以下ではアイデア部門、実装部門で発表されたシカケについて簡単に紹介していく。

アイデア部門

1件目は、林良平氏(鹿児島高専)が「動物メーカー」を発表した(図3の①)。RFIDタグを埋め込んだ脚や歯や骨といったパーツをテーブルの上に置けば、データベースと照合してその条件に合う動物を見つけてくれるというのもである。脚や歯や骨の本数でスタンプラリーをすることで園内の回遊を促したり、生物の多様性に興味をもってもらおうとするシカケである。

2件目は、松田靖史氏(一般)の代理で中村亮介氏と松田すみれ氏が「天王寺動物園は新しい異業種交流会や~!」を発表した(図3の②)。空いている展示スペースを動物に関係する商品(象印の魔法瓶やホンダのモンキーなど)を展示するショーケースにすることで、動物園と企業が連携した意外性のあるプロモーションを実現し、来園者にとってもコンテンツが増えると同時にスポンサーの獲得を狙ったシカケである。

3件目は、シロズナナエ氏(関西大学)の代理で松下光範氏が「一コマ入魂!どうぶつマンガ道場」を発表した(図3の③)。動物園に資料として大量に蓄積されている動物の写真を利用して、マンガを作ろうというものである。まず写真を選んで、その写真にマンガシール(吹き出しや効果音などをシール状に印刷したもの)を貼りつけてユーモアあふれるセリフを書いたり、写真を切り抜いてコラージュしたり、自分で書いた絵を組み合わせたりすることで、自然と動物の表情をじっくり観察しながら楽しんでもらおうというシカケである。

4件目は、狭間理子氏(武蔵野美術大学)が「なぞときパズル」を発表した(図3の④)。箱の中から動物のジクソーパズルのピースを無作為に選んでもらい、そのピースの模様からその動物を推測するというものである。動物園の展示スペースの前にはジクソーパズルの土台が置いてあり、ピースがちゃんとはまることで正解が分かる。模様から想像をふくらませることで動物の細かな模様を意識してもらおうとするシカケである。

5件目は、女子学生3人組のユニットP-girls氏(京都光華女子大学短期大学部)が「マイクラジコン「ガオーくん」を発表した(図3の⑤)。マイクを内蔵したボール型のラジコンを操作することで、動物たちと一緒に遊ぶことを実現しようとするものである。動物と間接的にたわむれることで子供連れの家族の来園を促すことを意図したシカケである。


図3. アイデア部門

実装部門

ここからは実装部門になる。

1件目は、陳履恒氏、王俊曜氏(国立曁南国際大学)の代理で筆者が「私立動物戦隊」を発表した(図4の①)。これは来園者と動物の顔写真を合成する(これを変身するという)もので、動物に変身できるという願望を叶えてくれるものである。動物の展示スペースに置かれたQRコードを読みこめばその動物に変身できるので、いろんな動物を見て回ることを促すというシカケである。

2件目は、中桐正翔氏、板谷祥奈氏(大阪大学)が「影絵deつながるzoo」を発表した(図4の②)。少し離れた2ヶ所に設置されたボックスに手を入れて影絵を作ると、ウェブカメラで取り込まれて2つの影絵が合成されて、一つのスクリーンに大きく映し出される。動物の影絵の作り方は動物の展示スペースで説明されているので、影絵のレパートリーを増やすためにいろんな動物を見て回ることになるだけでなく、影絵を通して動物の造形や仕草を観察するようにするためのシカケである。

3件目は、込宮珠美氏(武蔵野美術大学)が「zoo pet」を発表した(図4の③)。模様を簡単に差し替えることのできるペットボトルカバーであり、動物模様のカバーは展示スペースで配布されている。動物園でペットボトルをペットのように連れて持ち歩くことを実現するものである。かわいい模様の動物を探して園内を歩きまわるだけでなく、ペットボトルを持ち歩くので熱中症対策にもなるというシカケである。

4件目は、板谷祥奈氏、宮武由佳氏(大阪大学)が「水書きZOO」を発表した(図4の④)。動物型の白いキャンバスに自由に模様を書いてもらうというものである。水に濡れると色が変わる特殊な用紙を用いるので服が汚れる心配もなく、乾けば色が消えるので何度でも利用できる。動物の体に模様を描き込もうとすることがその動物の模様を思い出すキッカケになり、正解を知りたくて本物の動物をよく観察するようになるというシカケである。

5件目は、小川泰隆氏(大阪大学)が「天王寺の休日」を発表した(図4の⑤)。映画「ローマの休日」に出てくる真実の口を模したライオンの顔のオブジェであり、口のところに穴が空いている。口に手を入れるとセンサーが反応して消毒液を手に吹き付けることで、衛生向上を実現するシカケになっている。

6件目は、矢倉誠人氏、呉京澤氏(大阪大学)が「ゴミはちゃんと捨ててくだサイ」を発表した(図4の⑥)。ペットボトルを所定の位置に置き、レバーを引いて離すとサイが突進してペットボトルを突き飛ばし、ゴミ箱に入れるというものである。ゴミ捨てを楽しくすることでゴミの回収率を向上させようとするシカケである。

7件目は、土佐礼子氏(一般)が「(動物名)のこころがわかる魔法の指輪」を発表した(図4の⑦)。動物パネルの近くを通ると、イヤホンを介して動物が参加者に語りかけてくれるというものである。イヤホンにつながったコイルが電磁誘導によって動物パネルから音が伝わる仕組みになっており、あたかも動物が語りかけてくれるような演出によって動物への親近感を深めるというシカケである。

8件目は、北虎叡人氏(大阪大学)が「ヤギさん郵便」を発表した(図4の⑧)。郵便配達員に扮したヤギの口にアンケート用紙を投函するとヤギが鳴き声を発し、お尻からおみくじを出す。これらのギミックにより、アンケートを投函することを楽しんでもらい、アンケートの回収率を上げるというシカケである。

9件目は、廣本嶺氏(大阪大学)が「シカケで『感』じる『動』物ツアー」を発表した(図4の⑨)。クイズシートと自由研究シートからなり、クイズシートにはシカケの場所とクイズが記載されていて、クイズに答えたりシカケを体験してその意味を考えてもらうようになっている。自由研究シートはテンプレートにクイズシートの結果を埋めていくだけで自由研究が完成するようになっている。園内にすでに設置されているシカケを利用して、動物園内の回遊の促進およびシカケの理解を深めることを狙ったシカケである。

10件目は、芦田眞綾氏、内藤峻氏、松野皓介氏、岩崎聖夜氏(関西大学)が「よしよしハートビート」を発表した(図4の⑩)。動物の説明パネルに動物の体毛や質感を再現したスキンが貼り付けられており、スキン部分は動物の心周期に合わせて鼓動するようになっている。説明パネルに近づくことを促し、動物の理解を促すというシカケである。

11件目は、宮井康宏氏(一般)が「水分補給お知らせペットボトルホルダー」を発表した(図4の⑪)。ペットボトルホルダーに傾きセンサーとタッチセンサーがついており、一定時間ペットボトルを傾けて水分を摂取しないとゾウが鳴いてペットボトルに意識を向けさせ、水分を摂取すると拍手が起こるというものである。熱中症を防ぐために定期的な水分補給を促すというシカケである。

12件目は、竹内穂波氏(大阪大学)が「みんなで飛ぼうケンケンパ!!」を発表した(図4の⑫)。動物の足跡の模様のついたパネルがケンケンパができるように設置され、パネルを踏むとその足跡の動物の鳴き声が聞こえるというものである。足跡と鳴き声から動物を想像させることで、普段あまり注意を払わない動物の特徴に注意を向けさせるというシカケである。

13件目は、高橋緑氏(大阪大学)が「ひみつ道具視野拡大スコープ」を発表した(図4の⑬)。ハーフミラーと鏡を組み合わると、人の視野角の外側まで見えるようにできる。この被り物を体験してもらうことで、草食動物の広い視野を体験し、動物の視野への興味を促すというシカケである。


図4. 実装部門

審査員部門

アイデア部門と実装部門の発表が終わった後に、 審査結果を集計して受賞作品の決定、および表彰状の作成を行った。 その間の時間つなぎとして、審査員によるシカケアイデア/実装の発表が行われた。

1件目は松下光範氏が「シカケ7連発」を発表した。エサ箱にセンサーを設置しておいて、動物が食べにくると「えさばなう。最近めっちゃ腹へる。」などのメッセージをツイッターに投稿することによって自分のタイムラインに動物の投稿が並び、動物に親近感を持つようにさせるシカケなどを7件発表した。

2件目は平岡敏洋氏が「◯◯の気持ちー動物たちを疑似体験するVRシステムー」を発表した。これは動物の頭に取り付けたカメラやマイクをVRヘッドセットのOculus Riftで再現するというものである。これにによって動物が見たり聞いたりしている世界を体験して理解を深めたり、動物の展示方法を考えるというシカケである。

3件目は筆者が「チラ見ポスター」を発表した。人が近くに来たことをセンサーで検知すると額に入ったカラフトフクロウの写真の目が1秒だけそっちを向いてまた元に戻るというものである。人は他者から見られているような気がすると社会的に望ましい行動が促されるという知見があり、それを動物園内において実現しようとするシカケである。

4件目は谷俵太氏が「アニマルーレット」を発表した。ルーレットによってランダムに選ばれた動物を探しに行ってもらおうというものである。これにより、自らはなかなか思いつかない動物に興味をもってもらうというシカケである。

表彰式

この時点で審査結果の集計、受賞作品の決定、表彰状の作成が終わったので、表彰式にうつった。受賞作品は以下のとおりであり、下記以外の発表については参加賞が授与された。

採点プロセス

シカケコンテストでは、各発表ごとに以下の「実現可能性」「面白さ」「シカケらしさ」「個人的評価」の4つの基準(表1参照)で10名の審査員により採点された。全ての発表が終わってから採点結果を集計し、結果の上位から実装部門最優秀賞、実装部門優秀賞、アイデア部門最優秀賞、アイデア部門優秀賞を選んだ。それ以外の賞については集計結果を参考にしつつ、残りの発表の中から重複のないように審査委員で話し合って選ばれた。

表1.シカケコンテストの評価基準
3点 2点 1点 0点
【実現可能性】(実際にシカケを製作することが可能か?) 子供でも作れそう 大人なら作れそう 専門家なら作れそう 誰も作れなさそう
【面白さ】(シカケに惹き込まれるか?) みんな興味をもちそう 3割くらいの人が興味をもちそう 興味を持つ人がいるかもしれない 誰も興味を持たなそう
【シカケらしさ】(行動変化を促し、課題を解決しているか?) 狙い通りの効果が期待できそう ときどき効果が期待できそう 効果があるかもしれない 効果はなさそう
【個人的評価】(個人的に気に入ったか?) とてもとても気に入った とても気に入った 気に入った そうでもない

シカケコンテストの目的

最後に今回シカケコンテストを開催した目的について簡単に述べておきたい。シカケコンテストの目的は以下の4つに集約される。

筆者は、これまで主に仕掛けの事例を収集し、仕掛けを構成する要因について体系化を進めてきた。これらの事例の多くは専門家が作った仕掛けであったが、仕掛けを社会に広めていくためには、専門家ではなく誰にでも作れることが重要である。一般の人に作ってもらうようになるためには、一般の人が考えたり作ったりできる範囲を理解しておく必要がある。そこで、シカケコンテストという場を用意して、一般の人による仕掛けの事例が集まることを期待した。結果的に18件(+審査員部門の4件)の事例が集まったので、現在様々な角度から分析を進めているところである。

今回は事前にプレスリリースを出して、メディアの取材対応を行った。これは仕掛学のコンセプトや応用事例を社会に発信してもらうことを狙ったものである。最終的には某テレビ局から取材依頼があり、シカケコンテスト当日の夕方のニュースに1分間ほど放送された。

シカケの良し悪しを客観的に評価する際の傾向を知ることも重要である。シカケを実際に設置して実験すればシカケの効果は客観的に評価できるが、全てのシカケのアイデアをその方法で評価することはできない。したがって、アイデア段階でシカケの良し悪しを事前に評価できる指標が望まれる。これについても、シカケコンテストで審査員が採点した4指標(実現可能性、面白さ、シカケらしさ、個人的評価)のデータを用いて、審査員の評価とシカケの要因との関連などを現在検討しているところである。

シカケコンテストの事例分析やシカケの評価結果をを分析した結果については、いずれ論文にまとめる予定である。

反省点

反省点はたくさんあるが、一つだけ挙げるとすると「シカケ」(仕掛け)の説明が不十分だったことである。特にふらりと立ち寄った来園者に「シカケ」を説明する機会がなく、シカケコンテストの狙いが伝わらなかった可能性は高い。テレビ局の取材が放送されたときも「シカケ」という言葉は一度も使われず、アイデアコンテストが行われたような内容になっていた。一般向けのイベントの際には、ユニークなコンセプトを含んでいることが分かるようにネーミングを工夫することは今後の課題である。

まとめ

シカケコンテストは初めての試みであったが、多くの発表があり、また谷俵太氏の名司会のおかげで大いに盛り上がった。また上述したコンテストの目的もほぼ達成されるとともに今後の課題も明らかになり、今後の糧となるイベントになった。

シカケコンテスト当日はあいにくの雨になってしまい、一般の来園者が大変少ない日になってしまった。それでも、シカケコンテスト会場に用意した50脚ほどの椅子は常にほぼ埋まっており、また立ち見の来園者も少なからずいた。これまでは学会の会場など一般の人の目に触れないところで研究者を相手に研究発表を行うことが多かったが、筆者は一般の方々にも「シカケ」に興味を持ってもらいたいと考えており、今回のように誰もが立ち寄れる場所(天王寺動物園への入園料は必要であったが)で開催することができた意義は大きい。今後も様々な場所でシカケを披露する機会を積極的に作っていきたい。また、今回シカケコンテストで発表されたシカケのいくつかを実際にしかるべき場所に設置して、効果検証ができればと考えている。


図5. 最後まで残った参加者の集合写真

謝辞

シカケコンテスト2015は大阪大学未来知創造プログラムの助成を受けました。また、大阪市天王寺動物園に多大なるご協力を頂きました。また、大阪大学経済学部松村ゼミ、谷俵太様(aka 越前屋俵太)、松下光範様(関西大学)、塩瀬隆之様(京都大学)、平岡敏洋様(京都大学)、片山めぐみ様(札幌市立大学)、牧慎一朗様(天王寺動物園)、今西隆和様(天王寺動物園)、その他多くの方々にご協力頂きました。記して感謝いたします。