文責:松村真宏
2015年3月15日(日)に大阪大学会館のスタジオにて「第1回シカケハッカソン」(以下、シカケハッカソン)を開催した。ハッカソンは技術を使いこなす「ハック」とマラソンの「ソン」を掛けあわせた造語であり、1泊2日など比較的長い時間をかけて行われることの多いイベントである。今回のシカケハッカソンは1日だけ(実質6時間)の開催とし、参加資格を小学生以上(小学生の場合は保護者同伴)から社会人まで幅広く募集した。最終的に35名(子供6名、保護者3名含む)の参加者が集まった。
シカケハッカソンが対象とする「仕掛け」は、何らかの問題を解決するように人の行動を促すモノである。例えば、図1の筒は天王寺動物園に設置されているものであるが、筒の前を通ると気になってつい覗きこんでしまい、そこに置かれた象のフンを観察して楽しむというものである。何の変哲もないただの筒に見えるが、望遠鏡を想起させる形状、穴があるので気になる、子供の目の前の高さにある、といった要因によってそれまで通り過ぎていた人の足を止め、今まで見たこともない場所を観察させる仕掛けになっている。天王寺動物園は動物の住んでいる環境を再現した生態展示を行っており、動物以外のものにも目を向けるキッカケになっている。
このような仕掛けは、人の好奇心や知識をうまく利用することで実現できる(仕掛学の論文はこちら)。そこで今回のシカケハッカソンでは、磁石でくっつけていくだけで簡単に動いたり光ったり音が鳴るものが作れる「リトルビッツ」を用いることにした(図2)。
今回用いたリトルビッツ840個は株式会社コルグ様よりお借りした。リトルビッツの他には、レゴブロック、色画用紙、アイス棒、ハサミ、テープ、ヒモ、ストロー、輪ゴム、ペン、紙コップ、卓球ボール、百均のおもちゃなどを用意した。また、今回は仕掛けという、ほとんどの参加者にとって初めて考えるものを一から作ってもらうので、仕掛学のことをよく知っている、もしくはリトルビッツの使い方を理解している8人にファシリテーターをお願いし、周りの人を助けながら自らもシカケハッカソンに参加してもらった。
シカケハッカソンは午前10時から午後4時までの6時間かけて行った。当日は以下のように進行した。オープニングの様子を図3に示す。
10:00〜 挨拶、シカケ、リトルビッツの説明 11:00〜 仕掛けのアイデア出し 12:00〜 お昼休み 13:00〜 仕掛けの試作品の製作 15:00〜 発表 16:00〜 まとめ&後片付け 18:00〜 懇親会
まず参加者全員の自己紹介から始め、続いて仕掛けの考え方とリトルビッツを紹介した。リトルビッツを説明するときには、参加者各人に予め小分けしておいたリトルビッツ18個(wire 6個、power+cable 1個、screwdriver 1個、dc motor 1個、light sensor 1個、sound trigger 1個、pulse 1個)、button 1個、slide dimmer 1個、servo 1個、buzzer 1個、long led 1個、bright led 1個)を配り、その場で実際に触ってもらいながら使い方を習得してもらった。残りの390個の各種モジュールは必要な人だけ自由に使えるようにした。
その後、今回の仕掛けのテーマとして、2015年は大阪市にある天王寺動物園の100周年であることを踏まえて「動物園に設置するシカケ」を紹介した。ただ動くものを作るのではなく、特定の行動を促し、それによって何かしらの問題を解決するような仕掛けを考えてもらった。このときに説明に用いたスライドを図4に示す。
仕掛けのアイデア出しのときは、近くにいる人と適宜グループを作ってもらい、最終的に11グループに分かれて取り組んでもらった。ある班ではポストイットを使ってアイデア出しを行い、ある班では画用紙に絵を描きながら考え、またある班は話し合って相談しながらアイデア出しを行っていた。お昼の休憩を挟んで午後から仕掛け作りに取り組んでもらった。このときの様子を図5に示す。
最後にグループごとに作った仕掛けの説明とデモンストレーションをしてもらった。最終的に得られた仕掛けアイデアは以下のようであった。それぞれの写真を図6に示す。
今回の参加者は、ファシリテーター以外はリトルビッツも電子工作もほぼ未経験者であった。それにも関わらず、小学生から大人まで全員リトルビッツを使って動きのある仕掛けを作ることができ、リトルビッツは仕掛けのラピッドプロトタイピングに大変強力な道具になることがわかった。その一方で、仕掛けのアイデアがリトルビッツで実現できる(と参加者が考えている)ことに制限されていた可能性もある。今回は参加者に事前知識を問わなかったので基本的な機能しか説明しなかったが、リトルビッツに詳しい人とそうでない人でグループを組むようにした上で、詳しい人には高度な使い方も説明できれば、より趣向を凝らした仕掛けが生まれたかもしれない。
リトルビッツは高価であり、基本的なモジュール10種類が各1個ずつ入った「BASE KIT」は99ドル(日本円で1万円以上)もする。今回のシカケハッカソンでは840個のモジュール(「DELUXE KIT」15セット、「PREMIUN KIT」15セット、「SPACE KIT」15セット)を用いたので、これを全て買い揃えるとなるとかなりの出費となる。また、運営上の課題としては、参加者に最初に配るリトルビッツを仕分ける作業(6人で約1時間)と、シカケハッカソン終了後に箱詰めする作業(10人以上で約1時間)に大変手間取り、リトルビッツを用いることのボトルネックも明らかになった(「WORKSHOP SET」や「PRO LIBRARY」http://littlebits.cc/shop を使えばかなり効率化されるが、日本での発売は未定)。参加人数が多くなる場合には、リトルビッツ以外の方法を検討する必要があるだろう。リトルビッツのおかげで第1回シカケハッカソンは大成功をおさめたが、他にも仕掛けを簡便に実現する手段はあるはずである。今回得られた知見を参考にして、第2回シカケハッカソンは新たなアプローチを検討したい。
第1回シカケハッカソンは大阪大学未来知創造プログラム(2014年度)の助成を受けました。リトルビッツは会社コルグ様よりお借りしました。大阪大学経済学部松村ゼミ、関西大学総合情報学部松下光範教授および松下ゼミ、京都大学デザインスクール・アドバイザー谷俵太(aka越前屋俵太)様、大阪大学21世紀懐徳堂、その他多くの方のご協力を頂きました。記して感謝いたします。