新型コロナウイルスによる学習環境への大きな影響の中、今年も小学生を対象とした「シカケコンテスト2020」を開催します。コンテストの開催にあたって、大きな後押しをしてくれた平康慶浩氏を迎え、シカケコンテスト2020に感じることをコンテストを主催する松村真宏教授と語っていただきました。
平康 慶浩(左)
人事コンサルタント。セレクションアンドバリエーション代表取締役。グロービス経営大学院准教授。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所を経て、2012年にセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで150社以上の人事評価制度改革に携わる。松村 真宏(右)
大阪大学大学院経済学研究科教授。1998年大阪大学基礎工学部卒業。2003年東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。「仕掛学」を創始し、仕掛学の研究・実装・普及に従事。著書は『仕掛学』(東洋経済新報社)、『人を動かす「仕掛け」』(PHP研究所)、『しかけは世界を変える!!』(徳間書店)など。中津壮人(中の人)
写真と文を担当。MERGETECTS代表。
松村: 率直に伺いたいのが、シカケコンテストにどんな魅力を感じられましたか?ということなんですけれど。
平康: まず松村先生の仕掛学というものに魅力を感じてるというところがあります。ビジネスの世界で大人相手の実利的なね「得をするからこうしよう」という世界に生きていますと、そうではない、ふとやってしまう、ついやってしまうという仕掛けの魅力がありますよね。
松村: たしかにビジネスでは多くの場合は最終的に金銭的なところに着地しますしね。仕掛学は金銭的な行動誘導は含まれませんから。
平康: また、今回小学生が対象ということで、小学生の子供達にとって気づきを与える取り組みなのがいいと思ったんです。実は、昨年知った時には夏になっていたというのもあって、今年はぜひ最初から応援させていただきたいと思っていました。
松村: ありがとうございます。今年はどうなるか心配だったんですけども、こんなコロナの影響で夏休みがなくなりそうということがありまして(5月対談時点)。ただ学校は再開しそうなので6月から通常通りになるという発表もあったのでなんとかコンテストもできそうな感じがしています。そんな中で応援頂けるのは心強いです。小学校での学びの機会と折り合いつけながら、シカケコンテストという機会をこんな混乱の中でもつくれたらと思っています。
平康: コンテストの応募はどこからしてもいいんでしたっけ?
松村: Webから応募なので、全世界対応ということで(笑)。広くアイデアを募集していこうと思います。去年のコンテストも入賞者の一人が東京からだったりで広く募集できてるかなと思います。
平康: たくさん応募あるといいですね。
松村: シカケコンテストに興味持っていただいて、そこからさらにスポンサーに名乗りを上げてくださいました。それだけでありがたい限りなんですが、シカケコンテストを応援しようと思った経緯をお聞きしてもよいでしょうか?
平康: 魅力的だから応援したいというのがきっかけですが、シカケコンテストにしかできないことで、行動のきっかけというものが意外なところにあるっていうのを子供達に広く知ってもらえたらいいなぁと思っています。惰性とか習慣ではなくて、その行動のきっかけというものが存在して、そこに理由があるのかもしれないということを考えて、自分や身の周りの人の行動を客観視できるようになってもらったらいいかなと。 まあ小学生で客観視できますよ、というのは想像するとちょっと怖いかもしれないんですけど(笑)
松村: クールに自己分析する小学生、見てみたい(笑)。
平康: ね。それで客観視できるようになって、将来的に成長につながったらいいなと思っています。また、客観視で得た気づきを自分の意見として発信できるようになるといいですよね。コンテストに応募するっていうことは、間違いなく発信までいってますから。たとえば、教育の現場でもアクションラーニングとかで自己主張するっていうしくみが取り込まれていると思うんですけど、さらに今回のコンテストで客観視できるっていうのができたらいいかなと思っています。
松村: 客観視というのは面白い視点ですね。仕掛けを考えてもらう時っていうのは、まず社会に目を向けてもらって問題を探してもらわないといけないんですね。普段なかなか自分で問題を探すというのはしないと思うんですけど、このコンテストで仕掛けを考えるっていうのを通して問題を見つけてもらえたらいい。そして問題を解決するアプローチっていうのは、すぐ思いつくのは「貼り紙をしよう」とか「ルールを決めて周知しよう」っていうのがあったりするんだけど、仕掛けっていうアプローチでできるっていうのも考えていってもらったら、みんなもハッピーになれて、前向きな気持ちになれたらいいなと思います。
平康: 最近だと「SNSで誹謗中傷を一方的に書き込んで攻撃する」とかですね、また「コロナで自粛警察みたいな、人がやってる事に対して文句を言ったりする」とかですね、そういう例を見て感じるんですが、人って言えばそれで行動が変わるっていうことはないですよね。その言ってる内容が正論かどうかっていうのは別でありますけれど。ただ言って指摘していくだけでは行動が変われない。誹謗中傷は悪いぞとか、自粛を押し付ける前にみんないろんな状況に置かれてるのを想像しようよ、とか言うだけでは。そういう行動が変わるためには別のアプローチがいるんじゃないかと感じているわけです。それで、そういう視点で見回してみると、仕掛学ということで、どうやったら行動が変わるのかっていうことを考えるというのはいいなあと思っています。
松村: 仕掛けを考えようという対象は、元々言っても変わらなかったっていうのがあるんで問題として残っているんですね。だから、切り口を変えて、言って変わらないのだからどうやって行動を変えるかっていうところに発想を変えてもらうのがいいと思います。例えば、マスクとか最近コロナ対策でつけてると思うんですけど、多くの場合は周りの人が言うからつけるって言うのがありますよね。そこには本人の意思がなくて衆人監視的にさせられてるっていうのが現状多いですけれど、そこには「本人が自発的にマスクしたくなる」ようなアプローチっていう方が定着しやすくて、広がりやすくて、ストレスもなくて、いざこざとかも起こりにくいと思うのですよね。そういう発想で物事を考えるきっかけになればいいなって思っています。
平康: そういう発想いいですね。衆人監視的に押し付けられるようにマスク付けてると、反動が来そうですよね。ダイエットみたいな感じで、もうマスクなんか絶対するか!みたいなね。今は周りがやってるから仕方なくやっているという人が多いですからね。
松村: 今だと暑くて気持ち悪いですし、つけたくなくなる方向ですよ。でも、もしそれがつけたいっていうところからマスクつける行動に移れば、意識も変わってくるかなと思います。
平康: 女の子だったりすると、すっぴんの顔を見られたくないからマスクをするって言うのもききますけど、それって個人的な理由ではあるんですけど「自分がつける理由がある」からできちゃうことですよね。先日、ある書店に行ったんですけど、わざわざ課長さんが軒先に出てきてプシュプシュを除菌スプレーしてるんですよね。それで、マスクしてなかったら入店ダメですみたいな、きっちりしてるなーっていうふうには思ったんだけど、一方で管理されてるなっていう感じはすごいありますね。もっと各自に委ねるような、それでいて感染を防ぐというような仕組みにできるといいんですけれど。
松村: みんなが喜んでそうしてしまうっていうのがいいなあとは思うんですよね
平康: このコンテストでも小学生に(みんなが喜んでついしてしまうアイディアを)期待してしまうっていうのはあるんですけど、逆に小学生なのに期待されても困るってのもあると思うんですけど、去年のコンテストの応募を見ていて大人と違う部分っていうのは何かありましたか?
松村: 良い意味で素朴なアイディアっていうのがたくさんありましたね。複雑な凝ったものはあまりないというような感じがありました。素朴なんだけど、逆に大人は考えないようなアイデアっていうのがあってそれが良かったですね。
平康: 1年生から6年生まで幅があるじゃないですか。1年生だとまだ小さい子っていう感じですけど、高学年の子だともう大人みたいなところもあって。去年は学年による差はどうでしたか?
松村: 去年はばらついていて全学年から応募がありましたね。高学年に偏ったとかはなかったです。また、ある子はプログラムとか組んで仕掛けの実験してたりして、小学生だからというのを感じないようなものもありましたね。そして小学生が仕掛けを考えてすごいね、で終わらせずに、子供たちのアイデアを仕掛学普及委員会とか周辺のメンバーで具現化して実装するっていうのを去年はやっていました(豊中市の路上迷惑駐輪対策のためのトリックアート。応募されたアイディアを設置場所にアレンジして実装)。
平康: 小学生のアイディアもすごい。そういえば、松村先生のゼミで「コンビニの前で人がたむろしてしまうのを防ぐために、魔法陣を投影する」のやってましたよね。
松村: はい。でも、それは失敗しました。想定では理解できないものが現れたら避けると思ったんですけど、実際は珍しいから写真撮るために集まってしまった。
平康: ははは。魔法陣出るの楽しいですけど、目的は達成できなかったということですよね。もしかしたら小学生のアイデアの素朴さというのは、人の振る舞いをまっすぐ捉えていていいのかもしれませんね。
松村: 今年もどんなアイデアが来るか楽しみですね
松村: それではもう少し踏み込んできいてみます。コンテストを通して仕掛けを考えてもらうわけですが、平康さんは仕掛けを考えてもらうなかでどんなことが起こってほしいと思いますか?
平康: 今回課題を見つけるきっかけとして三つのテーマと自由枠を設定してると思うんですけど、課題を指摘するだけじゃなくて解決までもっていくという意識と行動を子供達に持ってもらえたらすごくいいことだなあと思います。
松村: 問題洗い出すだけじゃなくて解決策も一緒に出していくということですよね。
平康: そうです。意味のある解決策まで行けたら最高ですよね。解決策といっても、それで相手が怒ってしまったら何もならないですから、こっちの方がいいよみたいな。ついついやってしまうっていう、そういう解決策が出るといいですよね。今回テーマのうち1つを出させてもらったんですが、2メートル離れたくなるみたいなテーマもね、言って離させるというのは相手の自主性を潰してますから、自分から自然と離れていくような解決策まで到達してもらえたらすごいことです。
松村: ちょうど話題と言うか、社会が必要としていることなので、いいアイディアがあると大きな社会還元になります。さきほどの話にもつながって、素朴なしくみのほうが社会展開しやすいことも多いんです。凝ったものを作るのは時間もコストもかかりますから。シンプルな方が作るのも簡単で、仕掛けを配りやすくて、それで社会に広がりやすいというとこはあると思います。
平康: 小学生の男の子だと強い匂いがするものを塗ってみるみたいなも出てくるかもしれないですけど、それでも前向きに距離を取るっていう解決策が出るといいですね。面白がって距離をあけてくれるみたいなことになるといいですね。
松村: ポジティブな動機づけから距離をあけていけたら、気持ちよく行動できるので広がるような気がします。
平康: 新聞でもありましたよね。近くだと何を書いてるのか見えないんだけど、離して見ると書いていることが読めるようになるって言うのも。ああいうのは離してみたくなりますね。
平康: ところで、仕掛学の本を拝見すると、仕掛けによる行動をうながすトリガー一覧というのがありますが、こういう分類を子供たちにどういう風に伝えていけるでしょうか。考えやすくなると思うんです。
松村: 小学生にもその分類がヒントになると思っていて、まだ公開はしていないんですけれど、「きっかけ一覧」という資料を作って、それをウェブサイトで公開予定です。難しく表現するのではなくて、子供でもイメージできるような言葉で、仕掛けが機能するきっかけを示そうと思っています。
平康: そういう資料あると大人も考えやすそうですね。アフォーダンス、なんていうとちょっと捉えにくい人も多いでしょうから。このコンテストの大人向けが出来たりしても面白いですよね。会社を越えて開催したりとか。
松村: 先の展望としてはありだと思っています。ただなかなかスケールしないというところもあって、小学生から始めて行ってそこからだんだん広げて行こうと思っているんですね。実はアイディアを採点するっていうところもなかなか難しいんです。無いもののアイデアを評価していくっていうことなので、何人かの審査員でいろんな視点を入れながら一個一個評価していくっていう体制をとっていて、それがなかなかパワーがいるんですね。客観的な基準を統一するとかいうところもなかなか難しくて。だからコンテストの対象者を一気に増やすってなる時にその辺をうまく整えてから挑まないと(いいアイディアが埋もれてしまうことなるので)いけないかなとは思うんですけど。審査員に気に入ったアイディアだけ選んでもらうという風にするともうちょっとシンプルになってくるかもしれませんけどね。スクリーニング段階と評価する段階とを2段階で行ってもいいのかもしれないですね。
平康: 確かにそうかもしれないですね。人事のお仕事をしてるんで昇進させる人をどう選んでいくかっていうことをやるんですね。まずは評価基準でざっくり足切りしてしまうんだけれど、残った中からこの人たちはどうなんだろうっていうのを見ていくんですけど、こちらは点数はいいんだけどちょっと行動上問題があるぞっていう事もあったりして、どっちにするっていうふうに考えたりします。なので近いのかもしれないですね選び方として。最近だとAIで評価をある程度割り振ってしまうっていうのもあるみたいですね。
松村: いっぱい実例が溜まってくると、それを参照したり基準作って効率的に選ぶっていうのもできるのかもしれないんですけど、仕掛けの良し悪しというのは新規性だけじゃなくて実行可能性を見るっていうところもあるんですね。だから新しいからっていうだけでは評価できなくて、社会にどうやって実装するかっていうとこも見たりしていて、その評価のものさしが複数あるっていうのが難しくなってると言うのはありますね。まあそもそもアイディアとして面白くても仕掛けとして成立してるのかどうか、みたいなところも判断の一つになってきたりはするので。僕は「目的の二重性」を備えているかを重要視したいんですけれど、他の人はそうでもないと思っていたりしてなかなか評価の軸を決めるのは難しい。今回のコンテストを通して評価方法を体系化できればスケールアップしていけるかなとは思います。
平康: 大人向け、もっといえば社会人向けコンテストも期待しています。QC活動(Quality Control、品質改善のための活動)で言うとで現場の作業環境の改善をやるんですね。いろんな企業で改善案をやってきましたけど、それをコンテスト的なことにする。例えば残業をしてしまうという課題がまずあって、それで残業をどうやったらしなくできるかっていうのを考えるとか。そういうことをシカケコンテストとして考えていくっていうことができるのかもしれない。ほかにも、上司と部下がつい面談してしまうみたいなことができるといいんですけれどね。
松村: 2年前に、その面談したくなるのに近いテストしましたよね(注1)。部長がオフィスに点在する花に水やりをしに休憩時間に回っていく。水やってるから部長は時間があるアピールになるし、部下の近くを回るので声をかけやすいはずっていうのを狙ったのですよね。
平康: そうですね。2社ほどでその仕掛けの実験をやらせてもらいました。ただ、うちも初めてやらせてもらったので実験の準備とか条件揃えがあんまり綺麗に行かなかったかなあと思います。その時に言われたのが花を置く場所を工夫して欲しいというね。部下の間をまんべんなく回る必要があるわけなんだけど、オフィスに花を置く場所があんまりないとか、営業マンが昼間会社にいないから声かけられなくて、内勤の人ばかりが相手になってしまうとかありましたね。会社によっていろいろあるなぁっていうのがあって、やりながら改善できたらいいかなとは思いますね。もしもっかいやるのだったらもうちょっと広くやりたいですね。そういえば、去年はガチャガチャでやらしてもらったのもあります(注2)。ガチャガチャの中にチョコとかビスケットといったおやつが入っていて、その中に一緒に伝えたいメッセージも一緒に入ってるというやつです。休憩と一緒におやつ食べてもらうわけですが、その中にメッセージで「屈伸したり階段歩いたりして運動しよう」とか「朝挨拶しよう」とかが入っていて、朝礼をわざわざしなくても伝えていくみたいな。そのほうが、おやつといういいモノをもらっていることもあって、お返し的にメッセージの内容も受け止めてくれるんじゃないかなと。
松村: 遊び心のあるアプローチ、それを仕事の現場ででも出来るんだよっていうのも広がるといいですね 。
平康: このコンテストが小学生にとってのいい機会になるだけでなく、先の大人というか、みんながこのアプローチを使えるようになるきっかけになってくるかなっていうふうに思いますね。
(注1)福原 峻:組織における日常業務への仕掛けの適用,2018年度大阪大学大学院経済学研究科 経営学系専攻 課題研究レポート (2019)
(注2)吉岡 修志,平康 慶浩,松村 真宏:カプセルトイによる仕掛けが社員行動に及ぼす影響,第8回仕掛学研究会 TBC2020012 (2020)