NPOにおけるリーダーシップ行動の発見

掲載誌

知能と情報,Vol.18, No.2, pp. 233--239, 2006.

概要

NPO (NonProfit Organization) は,日本語では「非営利組織」と訳されることからも分かるように,利益の追求ではなく社会的な使命を達成することを目的にした組織である.NPO はその目的ゆえ,スタッフを動かすためにはミッションの共有が不可欠である.しかし,組織が大きくなりスタッフが増えてくると,組織や仕事内容が細分化し,次第にミッションを共有する事が難しくなる.そこで重要になるのが,リーダーシップ行動である.本論文では,組織運営のために必要なリーダーシップ行動を明らかにするために,NPO 法人ドットジェイピーを対象としてアンケートによる満足度調査と IDM によるメーリングリストの分析を行った.その結果,運営上の実質的なリーダーであるエリアマネージャは,スタッフに指示を出すだけでなく,スタッフの発言にしっかりと耳を傾けることが重要であることが明らかになった.

はじめに

NPO は,日本語では「非営利組織」と訳されることからも分かるように,利益の追求ではなく社会的な使命を達成することを目的にした組織である.NPO に法人格を与えて活動を支援する特定非営利活動促進法( NPO 法)が 1998 年に成立して以来,NPO の数は増え続けている.内閣府のホームページによれば,特定非営利法人の認証数は,1999 年 11 月に約 1,000 件,2001 年 10 月に約 5,000 件,2003 年 2 月に約 10,000 件,2004 年 1 月に約 15,000 件,2005 年 1 月に約 20,000 件となっている.このように,社会活動への参加に対する市民の興味や期待は大きく,NPO の数は増え続けている.しかし,NPO 運営のノウハウがまだ十分に蓄積されていないために,NPO 特有の運営の難しさが明らかになってきた.NPO の目的は社会的使命の達成であるため,スタッフを動かすためにはミッションの共有が不可欠である.しかし,組織が大きくなりスタッフが増えてくると,組織や仕事内容が細分化し,次第にミッションを共有する事が難しくなる.また,NPOはスタッフのボランタリーな行動に支えられているが,ミッションの共有が難しくなるに伴ってスタッフのボランティア精神を保つことも難しくなる [4].

そこで重要になるのが,スタッフをまとめる役割を担うリーダーのとるべき振る舞いである「リーダーシップ行動」である.組織の雰囲気・企業文化を作り出すのは必然的にリーダーであり [5],企業内における知識創造においてもリーダーが重要な役割を果たすことが指摘されている [6].また,組織において人的・知的資本を築くにはスタッフ間の信頼関係が重要だということはかねてから指摘されている [1-3].リーダーが信頼に足る行動を取るかどうかが組織の成否に深く関わっているのである.

このような背景から,NPO におけるマネジメントやリーダーシップの研究が望まれている.本論文では,NPO 法人ドットジェイピー( 1998 年創業,2000 年法人設立 以下,ドットジェイピー)を取り上げ,リーダーの果たすべき行動について実践的な分析を試みる.ドットジェイピーは,週 1 回のミーティング以外ではメーリングリストを主なコミュニケーション手段として組織運営を行なっており,メーリングリスト上でのコミュニケーションが,プロジェクト全体のコミュニケーションの大部分を占めている.近年,組織内コミュニティに関する研究への注目は高まっており,これまでにもメーリングリストを用いてコミュニティの動態を把握しようとする研究が行なわれている [7,8].本研究では,ドットジェイピーにおいて行なったアンケートによる満足度調査とメーリングリスト分析を統合することにより,組織運営のために必要なリーダーシップ行動を明らかにすることを目指す.

ドットジェイピーとは

ドットジェイピーとは,長期休暇(2・3月,8・9月)を利用して大学生が政治家のもとで職業体験をする「議員インターンシップ」事業を運営する NPO 法人である.本部が大阪にあるほか,全国に 7 支部(北海道,関東,東海,関西,中国,福岡,熊本)あり,それぞれ10人〜20人程度の学生スタッフにより運営されている.

活動は 4月〜9月,10月〜3月のそれぞれ半年を1期としており,1期ごとにスタッフの約半数が入れ替わる仕組みになっている.主な活動内容は,

  • 大学生をプログラム説明会,選考会などのイベントに集めて,2 ヶ月のインターンシッププログラムへの参加の呼びかけ
  • 議員に 2 ヶ月間の大学生受け入れを依頼
  • インターンシッププログラムが始まってからのサポート・各種イベントの実施

の 3 つである.各支部には,支部のマネジメント全般の責任者としてエリアマネージャが設置されており,実質的なリーダーの役割を果たしている.エリアマネージャも他のスタッフと同様に大学生であり,1 期ごとに選出される仕組みになっている.なお,本論文の著者はドットジェイピーのスタッフを 2 年半続けてエリアマネージャも経験しており,現在はマーケティングディレクターとしてドットジェイピーの活動状況の分析に従事している.

アンケートによる満足度調査

組織の成員に対する満足度調査は,人的資本の特性や問題点を見極める場合に活用でき,モトローラやヒューレットパッカードといった企業でも活用されている [9].本論文においても,満足度調査によって所属支部や各エリアマネージャに対する満足度を把握する.また,満足度調査の結果を目標達成率といった組織の活動状況を把握する指標と関連付けて分析し,組織運営を成功に導く要因を探る.

調査方法

支部とエリアマネージャに対するスタッフの満足度を測るため,2005 年 3 月に満足度調査を行った.調査は 2004 年 10 月箸キ 2005 年 3 月の間に活動していたスタッフ(全国 7 支部 104 名)にメールでアンケートを依頼し,97 名のスタッフから回答を得た(回収率 93 %).本調査はマーケティングディレクターの活動の一環として行ったため,非常に高い回収率であった.なお,スタッフには調査結果を分析以外の目的では用いないことを伝え,答えにくい質問にもできるだけ正直に回答するように依頼した.

支部・エリアマネージャに対する満足度

分析に用いた設問は以下の通りであり,満足度については 1 〜 5 の値( 5 : 満足,1 : 不満足 ),その理由については自由記述文で回答してもらった.

  • Q 1. 所属する支部の活動状況に満足していますか ?
  • Q 2. 所属する支部における自身の貢献に満足していますか ?
  • Q 3. 所属する支部のエリアマネージャに満足していますか ?

表 1 は,Q 1, Q 3 の結果を,目標達成率とともにまとめたものである.なお,支部名は特定できないように表記している.目標達成率は,支部が事前に掲げた以下の 3 項目の目標数の和と,実績数の和との比として算出している.

  • インターン選考会への学生参加数
  • インターンプログラムへの学生参加数
  • 懼インターン学生を受け入れる議員数

これら 3 項目は事業売上げと直接関係する数字であり,支部の成果は主にこの達成率によって評価される.

表 1. 目標達成率と支部ごとの平均満足度
支部 目標達成率 (%) 支部への満足度 エリアマネージャへの満足度
支部 A 135 4.78 5.00
支部 B 109 4.37 4.37
支部 C 106 2.69 3.00
支部 D 97 3.58 4.50
支部 E 99 2.69 2.75
支部 F 79 2.87 3.69
支部 G 69 2.82 4.50

目標達成度による分類と考察

前述のとおり,支部の成果は主に目標達成率によって評価されるが,支部 C のように,目標は達成しているが支部に対する満足度の低い支部が存在する.ドットジェイピーがスタッフのボランタリーな活動に支えられている以上,支部に対する満足度が低いことはドットジェイピーの存続にとって深刻な問題である.支部への満足度が,目標の達成によって決まるのでないならば,いかにして決まるかを明らかにする必要がある.

そこで,表 1 にまとめた目標達成率・支部満足度・エリアマネージャ満足度の間の関係を知るために,目標達成率にそって 7 つの支部を 3 グループに分類した.それぞれの特徴は以下のようにまとめられる.

【達成率:高】支部 A・B・C
支部A・Bは,支部満足度・エリアマネージャ満足度がともに高い.それに対して,支部Cは,高い目標達成率にもかかわらず支部満足度・エリアマネージャ満足度はともに低い.

【達成率:中】支部 D・E
支部D・Eは,支部満足度・エリアマネージャ満足度ともに支部Dのほうが高い.

【達成率:低】支部 F・G
支部F・Gは,支部満足度は同程度であるが,支部Gのエリアマネージャ満足度は高い.

以上の分析から,目標達成率とエリアマネージャ満足度の両方が満たされないと支部満足度は高くならず,支部 C・支部 G のように目標達成率・エリアマネージャ満足度のどちらか一方だけが高い場合には,支部満足度は低くなることが分かる.つまり,支部満足度を高く保つには,目標達成率とエリアマネージャ満足度の両方を高く保つ必要があるが,目標達成はマネジメント以外の外部要因が大きく影響するため分析は難しい.そこで次章では,それぞれの支部で用いられているメーリングリストを分析することでエリアマネージャがスタッフからの信頼を獲得するために必要なリーダーシップ行動を明らかにし,エリアマネージャ満足度を高めるための要因について考察する.

IDM によるメーリングリスト分析

メーリングリスト

ドットジェイピーでは,支部ごとにメーリングリストを作成し,週 1 回の対面でのミーティングとメーリングリストを利用して情報共有や報告,議論を行っている.スタッフ数と,2004 年 10 月〜 2005 年 3 月の 1 期間にメーリングリストに流れたメール流通数を支部ごとにまとめたものを表 2 に示す.

表 2. 支部ごとのスタッフ数とメール流通数
支部 A B C D E F G
スタッフ数 21 9 16 14 16 16 12
メール流通数 2297 1198 2465 2076 3258 1309 1717

このように,ドットジェイピーではメーリングリストでのコミュニケーションが非常に活発であり,実際に会って情報共有や議論を行うことと同等かそれ以上に重要視されている.したがって,メーリングリストでのやり取りを見ることで,支部の運営状況を確認することができる.本章では,IDM を用いてメーリングリストを分析することで,スタッフとの情報共有,建設的な議論,指示出し等のマネジメントが機能しているエリアマネージャとそうでないエリアマネージャとの違いを明らかにする.なお,IDM は,メッセージに用いられた語がどのくらい他のメッセージに広まっているかを,メッセージの返信関係を再帰的に辿りながら計算するアルゴリズムであり,メッセージ,参加者,語の影響力を求めることができる [10].例えば,A さんが投稿したメッセージに含まれる語の集合を MA,MA への返信として B さんが投稿したメッセージに含まれる語の集合を MB,MB への返信として C さんが投稿したメッセージに含まれる語の集合を MC とすると,A さんの影響力 IA,B さんの影響力 IB,C さんの影響力 IC はそれぞれ以下のように求まる.

IA = | MA ∩ MB ∩ MC |
IB = | MB ∩ MC |
IC = 0

つまり,IDM における影響力は自分の他の人に伝播する語への興味の強さ,被影響力は他の人の発した語への興味の強さを表している.本論文では IDM を用いてスタッフの発言の影響力と被影響力,およびスタッフ間の影響力の授受関係を表すヒューマンネットワークを求めた.

IDM による分析結果

IDM により各支部のメーリングリストを分析すると,支部ごとに表 3 のようなデータが得られる.以後の分析では,このようにして得られた各スタッフの影響力・被影響力のデータをもとに分析していく.

表 3. 支部BのIDM分析結果
スタッフ 影響力 被影響力 投稿数 被返信数
P1 855 395 297 109
P9 794 1074 277 113
P5 559 324 115 82
P2 499 696 174 68
P11 315 201 80 48
P17 251 546 57 41
P16 204 309 45 27
P4 53 50 18 8
P6 39 35 4 7
平均 176 176 54 29

エリアマネージャに求められるリーダーシップ行動

エリアマネージャに対する満足度とメーリングリストでの活動との関係を調べるために,支部ごとにエリアマネージャ満足度,影響力・被影響力におけるエリアマネージャの順位をまとめたものを表 4 に示す.これより,影響力で上位,被影響力で上位〜中位に入っているエリアマネージャは,高い満足度を得ていることが分かる(支部 A・B・D・G).一方,影響力は上位だが被影響力が下位の支部 C や,影響力・被影響力がともに中位〜下位の支部 E・F は,エリアマネージャに対する満足度も低い.また,エリアマネージャへの満足度と影響力による順位の相関係数は 0.76,エリアマネージャへの満足度と被影響力の相関係数は 0.57 になっている.これらの結果より,高い影響力・被影響力を保つことが,エリアマネージャが他のスタッフから認められることと強く関連していることがわかる.

表 4. エリアマネージャへの満足度,およびエリアマネージャの影響力・被影響力による順位
支部 エリアマネージャへの満足度 エリアマネージャの影響力による順位 エリアマネージャの被影響力による順位 スタッフ数
A 5.00 1 3 21
B 4.37 1 4 9
C 3.00 2 14 16
D 4.50 1 6 14
E 2.75 5 4 16
F 3.69 4 8 16
G 4.50 2 3 12

ヒューマンネットワークによる人間関係の理解

前節より明らかになったエリアマネージャに求められる要因は,スタッフ間の影響力の授受関係を表すヒューマンネットワークから視覚的に理解することができる.ヒューマンネットワークは IDM の出力として得られるものを利用する.

ヒューマンネットワークによる分析にあたり,表 4 の影響力・被影響力による順位をもとに 7 支部を 3 つのグループ( A, B, D, G )( C )( E, F )にわけ,それぞれの特徴を探った.図 1 から図 3 は,支部 A,支部 C,支部 F のメーリングリストにおける影響力の高い上位 6 名を抽出したヒューマンネットワークである .矢印の向きは影響の流れ,矢印横の数値は影響力,色つきのノードはエリアマネージャを表している.それぞれの特徴をまとめると以下のようになる.

【グループ 1 】支部 A・B・D・G
表 4 より,4 支部の特徴として,エリアマネージャへの満足度が高く,影響力は上位,被影響力は中位である点が挙げられる.また,図 1 の支部 A におけるヒューマンネットワークをみると,エリアマネージャは 4 名に影響を与え,5 名から影響を受けていることがわかり,他のスタッフと双方向のコミュニケーションが取れていることが見て取れる.このような密なコミュニケーションによって信頼関係が築かれ,エリアマネージャに対する高い評価に繋がっていると考えられる.


図 1. 支部 A におけるヒューマンネットワーク

【グループ 2 】支部 C
表 4 より,支部 C はエリアマネージャに対する満足度は低く,影響力は上位だが,被影響力は非常に低い位置にいる( 16 人中 14 位)ことが分かる.これより,エリアマネージャは他のスタッフに対して情報を発信していたが,他のスタッフから発信される情報にはほとんど反応していなかったことが見て取れる.図 2 の支部 C におけるヒューマンネットワークからも,エリアマネージャが他の 5 名に影響を与えているのに対し,2 名からしか影響を受けていないことが見て取れる.これより,エリアマネージャはスタッフと双方向のコミュニケーションが十分にとれていなかかったことがわかる.また,アンケートの自由記述文( 3.2 節,質問項目 Q 2 )より,支部 C のエリアマネージャ自身は支部をマネジメントできており,特にスタッフとのコミュニケーションは欠かさなかったと考えていたことが明らかになった.このように,本人には自覚しにくい他のスタッフからの信頼が被影響力によって客観的に推測できたことは大変興味深い.


図 2. 支部 C におけるヒューマンネットワーク

【グループ 3 】支部 E・F
表 4 より,支部 E・F は影響力・被影響力ともに中位〜下位である.両支部ともエリアマネージャに対する満足度は低く,マネジメント能力が欠如していたことが推察される.図 3 の支部 F におけるヒューマンネットワークを見るとエリアマネージャは 2 名に影響を与え,4 名から影響を受けているが,その影響力は他のスタッフに比べると相対的に低く,支部 F 内におけるコミュニケーションを率いているとは言い難い.グループ 1 で分析した支部 A におけるエリアマネージャと比較すると,その存在感の薄さがわかるだろう.


図 3. 支部 F におけるヒューマンネットワーク

以上より,自ら情報を発信することはもちろん,他のスタッフの発言にもしっかりと耳を傾けることによって互いの信頼関係を築くことがエリアマネージャに要求されるリーダーシップ行動であることが明らかになった.また,メーリングリストでのやり取りから定量的に導かれる影響力・被影響力やヒューマンネットワークからエリアマネージャとスタッフの間の信頼関係が判断できることは大変興味深い.

なお,支部 C,支部 E についてはエリアマネージャ以外のスタッフが実質的なリーダーを努めていたと考えられるが,現在のところ考察に足るだけのデータがないので,今後の課題とする.

IDM によるコミュニケーションの傾向分析

前節までは,2004 年 10 月〜 2005 年 3 月(以下,当期)の 1 期間を対象に考察してきたが,前述のとおりドットジェイピーは半年 1 期として活動している.そこで本節では,2004 年 4 月〜 2004 年 9 月(以下,前期)に活動していたスタッフで,当期も引き続き活動していたスタッフ 56 名の影響力・被影響力を 2 期間にわたり集計し,活動期によってコミュニケーションのスタイルに違いがあるかを明らかにする.ここでは,個々のスタッフのコミュニケーションスタイルの傾向を知るために,影響力と被影響力の差から,発信型(影響力>被影響力),受信型(影響力<被影響力),バランス型の 3 タイプを考え,それが活動期をまたいでどのように変化していくのかを見ていく.

図 4 は,縦軸に当期(第 14 期)の(影響力 ― 被影響力),横軸に前期(第 13 期)の(影響力 ― 被影響力)をプロットした散布図であり,原点を通る右肩上がりの分布になっていることがわかる(相関係数は 0.48 ).この結果より,前期のコミュニケーションスタイルと当期のコミュニケーションスタイルには正の相関があり,前期のコミュニケーションスタイルと当期のコミュニケーションスタイルは変わらない傾向にあることがわかる.活動期が変われば支部のスタッフのほぼ半数が入れ替わり,エリアマネージャ,その他の役職に就くスタッフも変化する.それにもかかわらず,メーリングリストにおける個人のコミュニケーションスタイルが変わらない傾向が明らかになったことは大変興味深い.リーダーシップ行動に求められる人材は,影響力,被影響力の共に高いバランス型であることを鑑みると,前期でコミュニケーションスタイルが発信型か受信型に分類されるスタッフが当期でエリアマネージャに選出される際には,コミュニケーションスタイルを変えるような研修・教育が必要であろう.


図 4. 前期(影響力―被影響力)と当期(影響力―被影響力)との関係


まとめ

NPO 活動は,スタッフのボランタリーな活動に基づいている.しかし,そのボランティア精神は強いることが不可能であり,また失われやすいものであるため,スタッフのモチベーションを保ち継続的な組織運営をしていくことは NPO 運営における本質的かつ重要な課題である.本論文では,アンケートによる満足度調査とメーリングリスト分析を統合することにより,リーダーとスタッフの双方向のコミュニケーションがスタッフの組織に対する満足度を保つためには重要であることを明らかにした.

今回の分析では運営期間の最後に満足度調査とメーリングリスト分析を行ったが,ドットジェイピーの活動は学生を集めてから実際にインターンに送り込むまでに何段階ものフェーズに分かれており,各フェーズにおいて中心となる役職や要求される性質は変わると考えられる.そこで今後は,メーリングリストにおけるマネージャの影響力・被影響力・ヒューマンネットワークのポジションの時系列変化と定期的な満足度評価を組み合わせることで,ドットジェイピーの継続的な運営改善に取り組んでいきたい.

また,本論文で提案したアプローチは NPO に限らず,メーリングリストを組織運営に用いている全ての対象において適用できる.例えば,エンロンのメールデータ [11] に適用すれば,メーリングリストにおいてリーダーシップを発揮していた人物を発見できるので,社内での役割と対応づけることによってリーダーシップ行動に関する新しい知見が得られるだろう.このように,様々な対象から知見を蓄えることで,メーリングリストを組織運営に活用するための手段を探っていきたい.

参考文献

[1] David Krackhardt and Jeffery R. Hanson: Info-rmal Networks: The Company behind the Char, Harvard Business Review, July-August, 104-111, 1993.
[2] Peter F. Drucker: Post-Capitalist Society, Harper- Business, Harper Collins, 1993.
[3] Etienne Wenger: Communities of Practice: Learning, Meaning, and Identity. Cambridge University Press, 1999.
[4] OSIPP Center for Nonprofit Research & Information: NPO 2004 White Paper The Japan Nonprofit Almanac-. http://www.osipp.osakau.ac.jp/npocenter/NPO2004.pdf, 2004.
[5] David Perkins and Daniel Wilson: Bridging the Idea-Action Gap. Knowledge Directions, vol.1, no.2, Fall 1999
[6] Krogh, G. V., Ichijo, K. and Nonaka, I.:Enabling Knowledge Creation: How to Unlock the Mystery of Tacit Knowledge and Release the Power of Innovation, Oxford Univ.Press, 2002.
[7] Ahuja, Manju K and Carley, Kathleen M: Network Structure in Virtual Organizations. Journal of Computer-Mediated Communication Vol.3 Issue 4, 1998.
[8] 北山聡:コミュニティを計量する,人工知能学会論文誌 第18巻6号,pp.668-674, 2003.
[9] Don Cohen and Laurence Prusak: In Good Company How Social Capital Makes Organizations Work,Harvard Business School Press,2001.
[10] 松村真宏,大澤幸生,石塚満:テキストによるコミュニケーションにおける影響の普及モデル,人工知能学会論文誌 第17巻3号, pp. 259-267, 2002.
[11] Enron Email Dataset